以下にMEN1で影響を受けやすい臓器とそこにおきる病気について説明します。
下図の症例名をクリックすると、別ウィンドウで説明をご覧いただけます。
脳下垂体
脳下垂体は鼻の奥のほうに位置し、脳にぶら下がるような形で存在します。小指の爪ほどの小さな臓器ですが、身体の機能を調節する多くの重要なホルモンを作っています。MEN1の患者さんの約半数で脳下垂体に腫瘍が生じます。膵臓の場合と同様、腫瘍から産生・分泌されるホルモンの種類によって特徴的な症状があらわれる他、腫瘍が周囲の組織を圧迫することによってあらわれてくる症状があります。以下に脳下垂体で作られるホルモンと、それが過剰になった時の症状を示します。
プロラクチン
乳汁の分泌を調節するホルモンで、正常では妊娠の後期から授乳期にかけて大量に分泌されます。妊娠や分娩に関係なくプロラクチンが過剰に分泌されると、無月経になったり乳汁が出てきたりします。女性では不妊の原因となりますし、男性でも性欲を減退させたり男性不妊の原因になったりします。MEN1に伴う下垂体腫瘍の約半数はプロラクチンを過剰に産生しています。
成長ホルモン
身体の成長、特に思春期の成長に重要なホルモンです。成人になって身長の伸びが止まっても糖や脂肪の代謝、筋肉量の維持、心臓をはじめとした内蔵の機能の維持に重要な働きをします。成長ホルモンが過剰になった場合は骨が過度に大きくなったり変形したりするため、顔つきが変化したり、手足が大きくなったりします(先端巨大症)。また糖尿病になったり動脈硬化が進行したりしやすくなります。
関節·骨の痛み
副腎皮質刺激ホルモン
腎臓の上にある副腎という臓器に働いて、そこでコルチゾールというホルモンを合成させます。したがってこのホルモンが過剰になると副腎からコルチゾールが過剰に分泌されることになり、その結果、中心性肥満(胴体や顔面に肥満があらわれ、手足はかえって細くなる)、高血圧、無月経などの症状があらわれます。この病態をクッシング病とよんでいます。
以下のホルモンも脳下垂体で作られますが、MEN1による下垂体腫瘍でこれらのホルモンが過剰になることはほとんどありません。
甲状腺刺激ホルモン
頸部にある甲状腺(副甲状腺とは別のものです)を刺激して、甲状腺ホルモンを合成をうながします。
黄体ホルモン
身体の「男らしさ」、「女らしさ」をつくり出すための性ホルモンを精巣や卵巣で合成させます。
卵胞刺激ホルモン
男性では精子を作らせ、女性では排卵を誘発します。
膵臓の場合と同様、MEN1でみられる下垂体腫瘍には特定のホルモンを作らないものもあります。下垂体の無機能性腫瘍はホルモンの過剰による症状は起こしませんが、大きくなってくると腫瘍が周囲を圧迫するため、頭痛や視神経の圧迫による視野狭窄をおこしてきます。これらの症状はホルモン産生腫瘍(特にプロラクチン産生腫瘍)の場合でも腫瘍が大きくなるとみられるようになります。また腫瘍が正常の脳下垂体を圧迫するために、脳下垂体の機能低下症状を伴ってくる場合もあります。
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"狭窄の症状と診断"脊椎痛患者
副甲状腺
私達の身体には通常4個の副甲状腺があり、前頸部(のどぼとけの下あたり)にある甲状腺という臓器に接して存在しています。副甲状腺は米粒よりも小さいものですが、ここから分泌される副甲状腺ホルモンは血液、骨、そして尿中のカルシウムの量を正常に維持する働きを持つとても重要な臓器です。副甲状腺はMEN1でもっとも高頻度に、そして通常もっとも早くから影響を受ける臓器です。
MEN1では多くの場合4個すべての副甲状腺の働きが高まります(副甲状腺機能亢進症)。過剰の副甲状腺ホルモンが分泌される結果、血液中のカルシウム濃度が高くなります。この状態(高カルシウム血症)は健診などの機会で偶然見つかるまで、何年にもわたって気づかれずにいることもあります。高カルシウム血症のために尿中に排泄されるカルシウムも増加し、これが尿路結石や腎臓の機能障害を引き起こすことがあります。また高カルシウム血症は間接的に胃十二指腸潰瘍を起きやすくします。
MEN1の体質を持つ人は、20歳で約半数の人に副甲状腺機能亢進症があらわれ、ほとんどの人は40歳までに発症します。副甲状腺機能亢進症自体は何年間にもわたってまったく症状をひきおこさないこともあれば、 尿路結石、骨量の低下や骨折、胃十二指腸潰瘍、倦怠感、筋力低下、筋肉や骨の痛み、便秘、消化不良、といったさまざまな症状を招くこともあります。
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兆候貧血
膵 臓
膵臓は胃の後ろ(背中側)にあり、十二指腸に消化液を放出したり、いくつかの重要なホルモンを合成・分泌したりしています。これらのホルモンは膵臓の中にたくさん散らばっている「ランゲルハンス島」とよばれる特殊な細胞の集まりで合成されます。MEN1の患者さんでは約半数でこのランゲルハンス島に腫瘍ができてきます。腫瘍にともなう症状はそこから産生・分泌されるホルモンの種類によって異なってきます。以下にランゲルハンス島で作られるホルモンとそれらの働き、過剰になった時の症状を示します。
ガストリン
胃の粘膜から消化に必要な胃酸を分泌させます。このホルモンが過剰になると胃酸分泌が高まり、その結果として胃十二指腸潰瘍がおきてきます。また過剰なガストリンは重症の下痢をひき起こすこともあります。MEN1に伴うガストリン産生腫瘍は膵臓よりも十二指腸の粘膜内にできることが多く、小さな腫瘍が多発するのが特徴です。
インスリン
血液中のブドウ糖(血糖)の濃度を下げます。糖尿病の患者さんの中には血糖を下げるために治療薬としてこのホルモンを注射している人たちもいます。インスリンが必要以上に分泌されると血糖が下がり過ぎ、動悸や冷や汗といった症状の他、重症の時には意識障害やけいれんをおこすこともあります。インスリン産生腫瘍はMEN1で生じる膵腫瘍の中では比較的若いうちから発生しやすく、MEN1患者さんの約1割では最初にあらわれる症状がインスリン産生腫瘍による低血糖症状であるといわれています。
グルカゴン
体内でのブドウ糖の産生をうながし、血糖を上げます。このためグルカゴンが過剰になると糖尿病になることがあります。また体重減少や特徴的な皮膚症状がみられることもあります。
ソマトスタチン
多くの細胞の働きを抑える作用があります。ソマトスタチンが過剰になってもあまり特徴的な症状はきたしませんが、糖尿病や胆石症の原因になります。
その他
MEN1に伴う膵腫瘍では特定のホルモンを産生しないものもあります。これを無機能性腫瘍といいます。無機能性腫瘍ではホルモン過剰による症状は出現しないため、画像検査を行わないと発見できません。
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その他の腫瘍
以上のほかMEN1では気管支や胸腺、あるいは胃・十二指腸にカルチノイドとよばれる腫瘍ができることがあります。胃カルチノイドは通常治療を必要としませんが、他の部位にできた場合には手術で取り除きます。副腎にも時々良性腫瘍が見つかります。また皮膚には脂肪腫とよばれる良性の腫瘍ができやすいことが知られているほか、顔面に血管線維腫と呼ばれる小さな赤茶色のほくろのようなものもよく見られます。これら皮膚の病変は特に治療の必要はありませんが、希望する場合には簡単な手術で取り除くことができます。
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